赤外線サーモは“雨漏りを直接映す機械”ではない
──物理原理を理解してこそ再現率が最大化する
赤外線サーモグラフィは、雨漏り診断において「最強のツール」として知られていますが、実際には雨漏りそのものを直接映す機械ではありません。その本質は、濡れた部分と乾いた部分の温度差を視覚化する技術です。
つまり、以下の条件が揃わなければ、正確な診断はできません。
- 温度差が正しく発生する環境
- 計測誤差を抑える撮影条件
- 浸水部の“熱挙動”の理解
これらを無視すると、誤診率が跳ね上がり、正確な雨漏り原因の特定が困難になります。本記事では、赤外線サーモグラフィを用いた雨漏り診断の科学的原理と実務精度を高める手法を徹底解説します。
赤外線サーモグラフィとは何か
──表面温度を色で可視化する“熱画像診断機器”
赤外線サーモグラフィは、物体の表面温度を測定し、その温度差を色で表現するカメラです。雨漏り診断においては、濡れた部分と乾いた部分の温度差を利用して、浸水箇所を推定します。
■ 基本原理
- 濡れた物体は蒸発による気化熱で温度が下がる
- 乾いた物体より温度が低く映る
- 温度差(ΔT)を拾って“浸水の可能性”を可視化
■ 雨漏りでの測定対象
- 天井裏の野地板
- 室内の天井材
- 外壁表面
- 屋根材(直射日光なしの場合)
サーモ診断はあくまで「温度差 → 浸水推定」のステップであり、その推定の精度を上げるのが技術者の役割です。
サーモ診断が“最も正確になる”環境条件
──温度差(ΔT)が2℃以上あるかが最大のポイント
赤外線サーモグラフィの精度は、環境条件によって大きく左右されます。特に重要なのは、温度差(ΔT)が2℃以上あることです。
■ ベスト条件
- 雨の翌日(まだ濡れている)
- 夜間・早朝の時間帯(熱差が大きい)
- 外気温 10〜25℃
- 直射日光がない
- 風速が弱い(5m/s以下)
■ なぜ夜間が良いのか
昼間は日射によって屋根や壁が温まり、濡れた部分との温度差ΔTが消えてしまいます。一方、夜間から早朝にかけては以下のような現象が起こります。
- 乾いた部分:大きく冷える
- 濡れた部分:水が熱を保持して冷えにくい
→ 温度差が最大化
ポイント:サーモ診断の成功率は“環境設定”で決まるといっても過言ではありません。
雨漏り診断で使う赤外線サーモの“正しい撮影ポイント”
──天井裏・外壁・屋根材は“見えるものが違う”
赤外線サーモグラフィを用いる際、撮影する部位ごとに目的と注意点が異なります。以下に、主要な撮影ポイントを解説します。
■ ① 天井裏
- 目的:浸水部の温度異常(冷たい・暖かい)を検知
- 理想:外気の影響が少なく、最も正確な診断が可能
■ ② 室内天井
- 目的:天井材の“表面冷却”を検知
- 注意:断熱材の有無で熱挙動が変わるため、注意が必要です。
■ ③ 外壁
- 目的:壁内部の水分滞留を可視化
- 注意:太陽光で温度差が消えるため、夜間の撮影が推奨されます。
■ ④ 屋根面
- 目的:屋根材裏の含水を推定
- 注意:日中の屋根は正確に映らないため、サーモ+散水+天井裏の併用が必要です。
赤外線サーモの“誤診が起きる”5大パターン
──プロでも間違える科学的理由
赤外線サーモグラフィは万能ではなく、以下のような誤診ポイントがあります。
■ ① 直射日光による表面温度の暴走
日射によって温度差が消え、浸水部が見えなくなることがあります。
■ ② 外壁の材質(ALC・モルタル・サイディング)で熱挙動が違う
- ALC:水分を保持しやすく、冷たく映りやすい。
- サイディング:熱伝導が早く、温度差が消えやすい。
■ ③ 断熱材の影響
断熱材が濡れていると、逆に暖かく映ることがあります。
■ ④ 室内エアコンの風
エアコンの風が天井を冷やし、偽の温度差が映ることがあります。
■ ⑤ 結露が“浸水に見える”ケース
特に冬季は結露を浸水と誤診するケースが多発します。
赤外線サーモと散水調査の併用が“最強”である理由
──水の動き × 熱挙動 を同時に抑えると、誤診率が激減
赤外線サーモグラフィ単体では限界がありますが、散水調査と組み合わせることで再現率が飛躍的に向上します。
■ 併用のメリット
- 散水で「浸入口」を再現
- サーモで「内部の走行」を可視化
- 天井裏で「伝い漏れ」を確認
→ 三位一体で原因特定が完成
■ 理論的に最強の手順
- 散水調査(Bot→Top方式)
- サーモで温度差を可視化
- 天井裏で温度差と濡れの一致を確認
- 発光液またはカメラで浸入口を確定
サーモ診断の画像解析ポイント
──模様ではなく“温度勾配”を読む科学
赤外線画像は“色の模様”ではなく、**温度の勾配(Gradient)**を読むことが重要です。
■ 見るべきポイント
- 冷たい部分が“線状”か → 伝い漏れ
- 冷たい部分が“面状”か → 含水 or 毛細
- 周囲との温度差が2℃以上あるか
- 天井木下地に沿っているか
■ 危険な誤読
- 壁内通気の“影”を濡れと誤診
- 断熱材の偏りを浸水と誤診
- サイディングの影を濡れと誤診
まとめ
赤外線サーモは“浸水そのもの”を見るのではなく
温度差から“濡れの存在”を推定する科学技術
雨漏り診断において、赤外線サーモグラフィは最強クラスの非破壊検査技術です。しかし、正しい環境、手順、論理がなければ誤診につながります。
- 気化熱による冷却
- 温度差の発生
- 熱伝導の違い
これらを理解し、散水調査や補完技術と組み合わせることで、雨漏り原因の特定精度を最大化できます。
