雨漏りは、建物の外から見える症状と内部で起きている現象が必ずしも一致しないという特性を持っています。そのため、単独の調査方法では限界があり、誤診のリスクが高まります。
例えば、散水調査だけでは雨漏りの経路を完全に把握することは難しく、赤外線サーモだけでは浸入口を特定することはできません。また、目視だけでは内部の複雑な挙動を見逃してしまう可能性があります。
そこで、最も再現率が高く、確実に浸入部位と濡れの因果関係を掴むために開発されたのが、「散水調査 × 赤外線サーモ × 天井裏観察」の三位一体診断です。この3つの手法を組み合わせることで、雨漏りの入口・経路・出口を同時に観測し、複雑な雨漏りを“構造として再現”することが可能になります。
散水調査:原因を“再現”する
──三位一体診断の第一段階
散水調査とは?
散水調査は、雨漏り診断の核となる「雨を科学的に再現する実験」です。単なる水をかける作業ではなく、雨量、角度、負圧、時間を精密に調整する必要があります。このプロセスを正確に行うことで、雨漏りの一次浸入口を特定することが可能です。
散水調査が最も重要な理由
雨漏りの根本的な原因は「雨がどのように屋根や外壁に当たっているか」にあります。そのため、本物の雨と同等の条件を作り出さなければ、雨漏りの挙動を正確に再現することはできません。
現場での雨の特徴は以下の通りです:
- 垂直ではなく角度がある:雨は風の影響を受け、斜めに降ることが多いです。
- 一定ではなく乱流が発生する:風の強弱により、雨の当たり方が変化します。
- 微圧・負圧を伴う:建物の形状や風の流れにより、局所的な圧力が発生します。
- 継続時間が長い:短時間の雨ではなく、長時間の降雨が原因となることが多いです。
これらの条件を正確に再現することで、雨漏りの一次浸入口が浮かび上がります。
散水量と散水位置の制御
散水調査では、水量と散水位置の制御が診断精度を大きく左右します。水量は必ず10〜20L/minを維持し、屋根材ごとに散水位置を精密に変える必要があります。
- 瓦屋根の場合:ケラバ、棟、谷、雨押え
- スレート屋根の場合:横重ね、縦重ね、棟板金
- 金属屋根の場合:ハゼ、ビス穴、雨押え、立上げ
何にどのように水を当てるかが、診断の成否を分ける重要なポイントです。
Bot → Top方式で散水
散水調査では、下から順に水を当てる「Bot → Top方式」を採用します。この方法により、複数の原因が混ざらないようにし、どの部分に水を当てたときにどこが濡れたのかを明確にすることができます。
- Bot(下部):壁際、軒先
- Middle(中部):谷、雨押え
- Top(上部):棟、上部屋根
この順番で散水することで、因果関係を明確にし、一次浸入口を特定します。
散水調査の目的
散水調査の目的は以下の通りです:
- 浸入口を再現する(一次原因の特定)
- 内部に水を走らせる(経路の明確化)
- 時間差を観測する(複合要因の分離)
これらを通じて、次の診断段階に繋げるための基礎情報を得ることができます。
赤外線サーモ:内部の“温度変化”を読む
──浸入後の水がどこを走っているか可視化する第二段階
赤外線サーモとは?
赤外線サーモは、濡れた部分と乾いた部分の温度差を利用して、雨漏りの内部挙動を可視化する非破壊のツールです。散水調査で水を入れた後、赤外線サーモで内部の温度変化(ΔT)を映し出すことで、二次経路が立体的に見えてきます。
サーモが映し出すもの
赤外線サーモが捉えるのは「温度」であり、水そのものではありません。水は蒸発する際に周囲の熱を奪うため、濡れた部分は冷たく映ります。一方で、断熱材が濡れると断熱性能が低下し、周囲より温かく映ることもあります。
このため、温度パターンを正確に読み解く技術が必要です。
計測環境が診断精度を決める
赤外線サーモの診断精度を高めるためには、以下の条件を整えることが重要です:
- 直射日光がないこと
- 時間帯:夕方〜早朝
- 外気温:10〜25℃
- 風速:弱い
- 散水直後〜30分以内
これにより、散水で湿った部分が温度差として立ち上がり、内部の挙動を正確に把握できます。
赤外線サーモの目的
赤外線サーモの目的は以下の通りです:
- 内部の走行ルート(二次原因)の可視化
- 時間差で浸入口の高さを推測
- 複数ルートの分離
赤外線サーモは「入口を特定する道具」ではなく、「内部挙動を可視化する道具」であることを理解することが重要です。
天井裏観察:実際の“濡れの動き”を見る
──最終的な浸水経路・出口を確定する第三段階
天井裏観察とは?
散水調査で水を入れ、赤外線サーモで温度差を確認した後、最終的に天井裏で実際の挙動を観察します。これにより、線状、点状、面状の濡れ方が明らかになり、原因の確定に繋がります。
天井裏で見るべきポイント
天井裏観察では、以下のポイントを重点的に確認します:
- 最初に濡れた木材:浸入口に最も近い部分。
- 垂木伝いの線状移動:水が垂木方向に移動している証拠。
- 野地板の面移動:合板層内部に水が入っている状態。
- 断熱材の滞留・袋状落ち:遅延型雨漏りの証拠。
- 伝い漏れの方向:室内のシミ位置と一致しないことが多い。
天井裏観察の目的
天井裏観察の目的は以下の通りです:
- 散水とサーモの結果を統合し、浸水ルートを確定する
- 一次・二次・三次原因を明確に分離する
- 複合雨漏りの判断材料にする
天井裏を見ない雨漏り診断は、「地図を持たずに迷路を歩くようなもの」と言えます。
三位一体診断の“完成プロトコル”
──これを行えば雨漏り診断の再現率は圧倒的に高まる
以下が、雨漏り診断における最強の再現プロセスです:
- 散水(入口を特定)
- 赤外線サーモ(内部経路を可視化)
- 天井裏観察(出口と経路を確定)
- 時間差分析(複合原因を切り分け)
- 一次・二次・三次原因に分類して因果モデルを構築
この流れを守ることで、どれほど難易度の高い雨漏りでも論理的・科学的に特定することが可能です。
三位一体診断で得られる効果
──単独調査では不可能な“因果の一致”が手に入る
① 浸入口(一次原因)の明確化
散水調査で直接再現することで、一次原因を特定します。
② 内部経路(二次原因)の可視化
赤外線サーモを用いて、内部の挙動を立体的に把握します。
③ 室内への出口を確定
天井裏観察で「どこへ落ちているか」を確認します。
④ 複合雨漏りの分離
入口が複数ある場合でも、時間差分析で正確に分けることが可能です。
⑤ 再発率が極端に下がる
原因を完全に把握して工事を行うため、修理後のトラブルが激減します。
まとめ
三位一体診断は“雨漏りを科学で理解する唯一の方法”
──入口・経路・出口が揃って初めて原因が確定する
雨漏りは「どこから入ったのか?」だけでは説明できません。以下の3つが揃って初めて、雨漏りの因果関係が100%可視化されます:
- 入り口(散水)
- 内部挙動(サーモ)
- 出口(天井裏)
三位一体診断は、雨漏りを科学的に理解し、確実に修理するための最強の手法です。

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